セフレの別れ話で媚薬

「もう潮時かなって思うんですよ」
久々に二人きり。
至って普通の里のど真ん中にあるありふれた観光旅館。
最初の頃は、あえて里の外やらプライベートを金で買えるようなキチンとした場所を選んでいたが、最近はもう時は金なり、時間短縮こそ最善にして最良と言わんばかりに、とにかく近場で適当に済ます。
ここは忍の里だ。
いちいち細かいことなど気にしていられないというか、隠すのが面倒になったし、そこまで世間は俺とカカシさんに構っていない。
いや、そうでもないか。
次期里長となるはたけカカシについては多少の身綺麗な状態を期待するが、個人としてのはたけカカシには口を出してこない。
それだってもう残り時間も少ない。
お互いわかりきっているけど、そこそこ見ない聞かないわからないフリをしている。
けどもうやっぱり限界かな?と思わなくもないのは、俺に教頭職の話が出た地点で色々と察した。
教頭といえば、実質アカデミーを切り盛りするトップということだ。
忍術アカデミーのトップたる里長を補佐する立場である事を求められて、俺自身の身の回りも綺麗に地均しが進められている。
カカシさんにだって耳が痛い話だとか、見えないフリではどうにもならない事なんかは色々言われているだろう。
俺の切り出した話に興味がないとでもいうかの如く、まるで自宅の風呂にでも入るみたいにばっさばっさと脱がれてゆく衣類。
特に何か労りの言葉をかけたり、確かめあうような愛もないわけで、セックスするしかないとは言えど、余りにも…、あ、パンツは待とう。
パンツは待とう!
それくらい脱がせる楽しみは残しておいて欲しい。
半分くらい尻まで出たカカシさんの右腕を掴む。
「俺の話聞いてますか?」
「脱ぎながら聞いてますよ」
手袋以外はパンツしか纏っていないカカシさんが極めて怪訝そうに見つめ返してくる。
「時間ないんでしょ」
確かに明日の朝も夜明けから細かな予定は入っている。
いつも無い時間のギリギリを縫って、セックスの後は崩れるみたいに爆睡して仕事に出る。
だから俺達は自宅に帰るよりもアカデミーの近場で宿を取る。
そもそも俺達がセックスをした切っ掛けは、酒だ。
飲み過ぎて家まで帰るのが面倒臭くなって、ホテルで飲み足してるうちに何となく触れあって始まってしまったという、子供たちにはとてもじゃないが聞かせられない失態からだ。
なんとなく、そのままズルズル続いている。
そのズルズルを正すためににも、ここは1つ真面目に話し合うべきだと思うのに、この人はそのつもりがないのか結局手袋以外は脱ぎ捨てている。
実際にもう時間はない。
「最後なんだし、楽しんできましょうよ」
俺からは言い出せなかった最後。
やっぱりセックスするだけの不毛な関係なんて、終わりがあっても仕方がない。


いっぱい楽しみたいし、先生を覚えておきたい。
そんな蠱惑的な言葉を囁かれて、ついつい俺は頷いてしまう。
カカシさんがポーチの中から取り出した小瓶には、何やら暗部専用の媚薬だとかいう物らしい。
俺は今までに1度だってカカシさんに薬の類いを使った事がない。
何故ならどんな薬であろうと、薬と名がつく限りは必ず副作用が潜んでいるからだ。
一時的な快楽の為に、カカシさんをほんの少しだって『いつも通り』から外したくなどなかったからだ。
数日先まで休みだと言われても、急な指名でセックス中に出ていった事も片手で足りないくらいある。
こんな最後という切っ掛けでもなければ、いくらカカシさんの希望でも媚薬なんかを使うことはなかったろうし、そもそも選択肢にも入ってすら居なかった。
俺がやれる事で叶えられるならと、あえて副作用なんかも聞かずに渡されたトロリとした液を指へと絡めてカカシさんのナカへと塗り込む。
組み敷いたカカシさんの耳元へと唇を寄せて、「痛いですか?」「辛くないですか?」と聞けば「気持ちいいから」「大丈夫」と、常より少しばかり笑い混じりの柔らかな声が耳元へと返される。
聞きたいことも言いたいこともそうじゃないけど、言い出せるほどの何かが足りない。
求められるままにカカシさんの内側へと猛った己を収めれば、もうそれだけでイッてしまいそうになる。
きっかけはどうであれ、俺にとっては憧れで、何年間も肌を重ねた唯一無二の人だ。
この人には内緒にしているけど、実は前も後ろもこの人がはじめてだ。
カカシさんにはバレているかも知れないけど、聞いてこないから言っていない。
きめが細かくしっとりと手に馴染む肌は、俺以外とも繋がりを持っているかも知れないが、聞いてしまえる勇気がない。
もしもこの人に何かしらの感染症を移したらと考えると、とてもじゃないけど俺からは他人には触れられなくなった。
カカシさんを巡る華々しい噂話は毎日の様に耳には入ってきていたし、噂半分にしたって男も女も選び放題には違いない。
俺とカカシさんは飯を食って、たまにセックスする。
忙しい時なんかは俺から断る事もあるし、カカシさんから断られる事もある。
もう片手で足りない年数ほど関係は続いているものの、1度だって互いの気持ちを確認する言葉は無かった。
聞かれなかったから言わない。
ただセックスを繰り返して、別れ続ける。
次の約束すらした事がない。
そういう言えない事が重なりすぎて、正直疲れた。
心の奥ではカカシさんとどうにか違う形になりたいと思いながらも、自分からは何一つとして動いてこなかった。
にも関わらず俺が一方的に心の奥へと澱みたいな物を静かに積もらせ、それが不平不満という形で長い時間をかけて確実に腐敗していった。
俺だけが惚れていて、何もかもこの人を優先させる事が当たり前になっている。
そんな馬鹿な被害妄想が拭っても拭っても心の奥から染み出してくる。
だから良い機会なんだと思う。
立場の違いだなんて、格好の言い訳じゃないか。
みっともなく月に向かって吠える前に、俺からキチンと身を引いただとかの少しばかり思い出を補正出来る要素が欲しい。
覚えておきたい。
そんな言葉の通りか媚薬の効果か、カカシさんの内側がいつも以上にねっとりと熱く俺の形を舐めるみたいに添ってくる。
思わずびくついて跳ねた腰を、カカシさんの太腿がねだるみたいに撫でてくる。
抜けかけた俺のチンコがカカシさんのナカへとすぐさま飲まれ、柔く吸われて、包まれる。
ほんの数㎝にも満たない前後のうねりに、あっという間に果ててしまいそうになって唇を強く噛み締める。
許すみたいに大きな手のひらで囲われる後頭部と、すがるみたいに抱かれる背中にどうしたって息が詰まる。
出してしまえば攻守交代。
こんな所でまだイキたくない。
俺があんたを抱いたってことを、出来ることなら長く覚えていて欲しい。
珍しいと散々からかわれた陰毛。
初めての夜に暗部の人間はみな剃ってしまうから、そこに毛が当たるのはくすぐったいと笑われた。
暗に示される過去の恋人達。
俺には全く届かない、属する事すら叶わない隔たりがあることは、同じ忍だから余計にわかる。
近くて遠い大きな違いだ。
形ばかり真似して剃ったら、生えかけがチクチクすると抱くときも抱かれるときも笑われ続けて、俺がキレてベッドの中から蹴り出した。
今は笑いもしないし、なんだったら俺の陰毛に散った精液まで肌に刷り込むみたいに舐めるんだから、まぁそこそこは慣れたって事だと思う。
でも俺は当時も今も、触れられればドキドキするし、自分から手を伸ばすときは震えていないか意識する。
快楽だけを追う閉じられた両目の縁がセックス中に赤く染まっていく様は何度みたって惚れ惚れするし、上がった口角の横についた黒子には逆にどうしてだか目を逸らしてしまう。
艶やかな低音の吐息で隠すことなくつまびらかに晒されてゆく弱点と悦び。
喉が唾液を飲み込み滑らかに動くだけで感動する。
潤滑油として使った媚薬のせいか、何時もよりもずっと早くから身体が火照る。
薬物耐性が高いカカシさんにも効いているのか、俺の腕の中に閉じ込めた身体も隅々まで朱を帯びて汗ばんでいる。
僅かに身動いで背中へと回されていた手がスルリと落ちて、離れてゆくかと思った指がそのまま俺の頬を撫でる。
「せんせ、見すぎ」
うっすらと開けられた目が余りにも優しすぎて。
セックスくらいでしか繋がりなんて無い筈なのに、受け入れられていることが苦しくなる。
泣きそうになってぐずつく鼻をカカシさんの髪に埋めて息を吸う。
みっともなくとも愛を乞えたらどれ程良いか。
でもそれは俺の役目じゃない。
この人が誰とどんな夜を過ごすかなんて、知りたくもないから聞いていない。
恋人の様に甘えて甘やかされる性行の後も、出してしまえば翌日はあっさり各自の家に帰るのがいつもの事だ。
俺以外にもそういう相手が居るかも知れないし、その相手にはもっと特別な事をしているかも知れない。
こんな技巧も何もない、ただ繰り返しがむしゃらに突くだけの動きよりも、カカシさんが俺を抱くときみたいに上手く誘導出来ればいいのに。
今だって本来ならば俺の方が有利なはずなのに、イニシアチブは何時だって絶対的にカカシさんが握っている。
里に定住するようになって太ったと嘆いていた腹は、確かに厚みはあるものの上質で軟かな筋肉で見事に腹筋は割れている。
俺が突き入れればナカへと入れた俺の形で膨らみ、腰を引けばその分凹む。
当たり前と言えば当たり前なのに、どうしてだか何度みてもおかしな気持ちで仕方がない。
入れる、膨らむ、引く、凹む。
カカシさんの出来るだけ奥をチンコの先で擦ってやりたくて、グッと腹へと力を込めながらヘコヘコと腰を揺らす。
何度繰り返したか覚えてもいない単純作業。
ぱちゅぱちゅと肌がぶつかって立てる音と、カカシさんの濡れたチンコの先っちょが俺の腹に当たって擽ったい。
そうこうしている内に段々と考えがまとまらなくなって、バカみたいに閉じ忘れた口の端から涎が垂れる。
慌てて飲み込もうとしても間に合わず、カカシさんの鎖骨の内側へと落ちて、唾液ごと肌を吸って舐めて清める。
俺が突く度にカカシさんのチンコだって俺の腹へと当たるものだから、いつもは内側から突かれている場所が皮膚側からトントンされて、抱いているのか抱かれているのかぐちゃぐちゃになってヒイヒイと情けなく声が上がる。
そこへだめ押しみたいにイルカだなんてカカシさんが熱っぽく俺を呼ぶものだから、もうだめだ。
避妊具を着けていないと気が付いたのは、カカシさんの中に精液をぶちまけてからの後だった。


素肌に旅館の浴衣を羽織り、広縁の窓を少しばかり開けて外の空気を吸い込む。
春の夜は夜明け前にも関わらず生温く、眠っている筈の植物の息吹きが鼻につく。
備え付けのテーブルと二脚の向かい合った椅子しかない狭い空間。
カーテンをめくれば里を一望する事も出来るが、あえて見ようとは思えない。
当たり前に置かれた灰皿を前に、久し振りに煙草の存在を思い出す。
居心地が悪く座り心地の良い上等な椅子に、やっちまったと頭を抱える。
中央部分が磨り硝子の嵌め込み障子を一枚隔てた部屋の中には俺と同じく浴衣一枚のカカシさん。
今は俺も辛うじて起きてはいるけど、これは寝たら起き上がれなくなるパターンだなと、胸の内でこっそりと溜め息をつく。
抱いて抱かれた身体は重く、頭の芯は熱っぽく痺れている。
別れの言葉をどうにか絞り出そうとするものの、いやいやそもそも別れるの前に付き合ってもいないと駄目すぎる関係に目を反らしたくなる。
とても良くないとはわかっているのに、寝返りを打つカカシさんの声の艶かしさやら何やらに心がざわめく。
ザラリと爪先が畳を掻く音に、せめて布団の中で寝てもらおうと障子を開ければもう駄目だ。
今しがたまで交わっていた精液の生臭さに、多少の換気では抜けきらない濃密な空気。
薄暗い部屋の中でも、皮膚の下側から照らすみたいに浮かび上がる肌の白さ。
終わった事だと心の中で唱えるのに、また内側から溶けてくる。
ぼんやりと眺めている間にまた囚われて、引きずり込まれて、飲み込まれる。
気が付いたときには旅館の布団の上へと倒れていて、夜明けを告げる鳥の声が目時ましの代わりとなった。
悪夢というか、淫夢というか、白昼夢さながらの朧気な数時間。
その場かぎりの別れようなどという口約束は過去に何度も反故にされた。
ただ分かっていることは、また誘われれば断れないだろう自分の意思の弱さだけ。
こうして愛はいつも過剰で不足し、俺だけが不満を募らせる。
  • レピドプテラ
いつだってちょっとしたフェチが入ってんのホント凄いですね。手袋パンツからの手袋全裸を想像して思わず滾ってしまいました///
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