素敵な企画をありがとうございます!
『セフレの別れ話で媚薬』で参加させて戴きます。


 最初は合意があったなんて、とてもじゃないが言えない状況だった。
 任務地での上官を慰めるお仕事。そういうものは数年前まではよく聞く話だった。時代がよくなった、と言えばそうなのだが、今ではそんな因習は存在しない。
 その頃を経験した忍は割り切れる者とそうでない者がいる。自分は前者だったんだろう。でなければ、今更この男とセフレなんてものになるはずがない。

「別れてくれません?」
「……出会い頭にまず言うことですか?」
 とにかくこっちへ、と人目につきやすい廊下から人気のない資料室へ銀髪頭の上忍を引っ張り込む。自分の方がそういう目に遭うことが多かったから、妙に感慨深い。
「大胆ですね」
「…なんで嬉しそうなんですか……」
 それを言うならほぼ毎度、自分をどこかに引きずり込んでいるカカシの方が大胆ということになるのだが……いや合ってるな。
「それで、なんです?」
「うん。今日で別れようかなって。今から空いてる?」
「…なんか、前半と後半の内容差が激しい気がするんですが……いえ、いいです」
 なんやかんや言ったところですることは変わらないのだ。
 仕事は終わっているので後は帰るだけだ。そう告げたら手を差し出される。そこに自分の者を重ねるのもこれで最後……けれど先程のような感慨は感じなかった。

 前言は撤回しよう。
 割り切れるはずがないのだ、あんな鮮烈な体験を。
 自分を犯す相手の顔は、それは美しかった。白磁の膚が、体温が上がって徐々に赤みへ染め上げていく様はこちらの脈拍を速めた。淡々とした表情の中に、少しの痛みと、快楽の狭間で揺れる理性が見える。眼を閉じればすぐに思い出せるそれらは、本当に息を止めるほど――。

「では、今日で最後に」
「ん」
 彼の家へと術で飛び、実にあっさりと交わされた終わりの言葉の後、交代で風呂を使うことにした。先に入ったのはカカシだ。
 カカシとは決められた手順でベッドに雪崩れ込む。
 まずイルカのもとにカカシが現れて、都合がいいかを確認されてから手を差し出される。都合が悪いならそこで拒めばいい。まぁ断ったことは無いのだが。
 思うにカカシはイルカの都合をある程度把握してから誘いに来る。まめであるし、そういう気遣いをするから揉めたことも無い。
 乱暴をされたこともない。最初をカウントしてしまうと微妙なところだが、行為自体は丁寧だったんだろう。媚薬入りの潤滑油を使われたので身体は快楽ばかり拾っていたが、翌日違和感は残るものの大して痛みも感じなかったのだから。
(……ああ、そうだ)
 勝手に最後にされてしまったのだから、最初を彼に返そう。
 カカシが風呂から出てくるのを、いつも棚にある本を勝手に読んで待っている。今日はそのいつもから外れて、彼が装備品を仕舞っている部屋へと足を向けた。イルカはカカシがどこにあの時の媚薬を仕舞っているか知っている。それくらいにはここで過ごしたのだ。
 小瓶に収まっているのは色の無い液体だ。揺らせばとぷりと粘度を感じられる動きをし、蓋を開ければ微かに花のような匂いがする。実際ある花から作られるらしいから、その匂いだろう。
 カカシと交代に風呂へ向かう時はまだそれを持ったままで、用意がすべて終わってから、彼が待つベッドの上で初めてそれを差し出した。
「これ使いたいの?」
「ええ。あなたに」
 んー? と笑んだまま首を傾げるカカシは、すぐに察したようで今度は妖艶な笑みを浮かべてみせた。
「俺を抱くの」
 まるで正解を導き出した子供を褒めるような、そんな音を紡ぐくせに、その眼はしとりと濡れて色を放っていた。


「…ん…、そこ、」
「ここ…?」
「ふ……、うん、きもちいい……」
 いつもはそれどころじゃないのに、今日に限ってやたらと衣擦れの音を耳が拾う。カカシの開いた足が揺れる度に奏でられているのだと思うと、ひどく胸が高鳴った。
 潤滑油をしっとり注ぎ込んだカカシの後孔にイルカの指がうずまり、彼のいいところを探す。そこで知ったのだが、カカシはどうやら慣れているらしい。腿を、腰を、口を使ってカカシの悦いところへ誘い込んでイルカに教えてくれる。初めて知った。こんな、このひとを。
 それがまぁ、なんというか実に面白くない。
 顔にはっきり出てしまったんだろう、カカシはイルカを見上げてきょとりとした直後、ふはっと息を吐いて笑った。
「もうさ、いいから……早くイルカせんせいをちょうだい」
 くい、と招く足先がイルカの腰を撫でて誑し込む。それだけでもうイルカの手で蕩けていくカカシを前に臨戦態勢だった半身が暴発しそうで、ぐっと奥歯を噛み締めた。不意打ちはやめてほしい。
「えぇと……いただきます?」
「ぶふっ」
 こんな時に笑わさないでよ、ところころ子供みたいに笑ったくせに、やっぱり次の瞬間には蜜でも滴るんじゃないかと思わせる、色香を乗せた視線をくれるのだ。


 カカシを抱くのは、夢のような時間だった。
 イルカは非処女だが、童貞だった。まさかどちらの初めてもカカシで経験することになるとは思いもしなかった。
 彼のなかはとにかく熱くて、やわらかくて……こんな言い方が合っているのかわからないが、やさしかった。イルカを受け入れてくれていると感じられる。
 拙い腰使いだろうに、突き上げる度に息と掠れた声を零してくれる。好いところに当たったなら、気持ちがいいと抱きしめて頬にキスをくれる。背中に爪を立てられた瞬間、痛みと共に走り抜けたえも言われぬ感覚が腰を突き抜け、カカシのなかで精を放ってしまった。しかも続けて。
 唐突に、今見ているカカシはいつも彼が見ている自分じゃないのかという考えが過ぎって、顔が燃えるように熱くなった。それはつまり、今感じているものが自分を抱いているカカシが感じているものと似ていることにもなるのではないか。
 イルカの中には今、自分の為に身体を開いて、いいと喘いで感じてくれているカカシへの愛しさでいっぱいだ。なぜこんなにも鮮やかな感情を見過ごしてきたのだろう。
 愛せることに胸がいっぱいになって、そうしたら愛してほしいと心が喚きだす。心の次に、身体がざわめきだす。
「イルカせんせ……ねぇ、今すごく、あなたを抱きたいんだけど」
 いい? と尋ねてくる声に返すより、彼のなかから己を引き抜く方が早かったかもしれない。離れた直後に位置が反転してベッドに沈む。
 覆いかぶさってくるカカシはいつもと違って、抱かれた後の艶めいた表情をしている。濡れた唇に眼が惹きつけられ、誘われるままに吸い付いた。ふ、と楽し気な音が彼の鼻から抜けて、いつの間にか自分の後孔には彼の指がうずまっている。
 すぐに蕩けた身体は嬉々としてカカシを受け入れ、イルカは常より感じ入り乱れた。馴染んだカカシの腰使い、奥を穿つ肉の存在に耽溺する。
 そして逐情する間際にカカシが、腰を振る度にさっきせんせいがなかで出したものが零れてくる、とうっとりした表情で囁き落としてくるので、脳が真っ白に焼かれて落ちたのではないかと思う、強烈な快感を味わった。



「あの……大丈夫、ですか…?」
 事の後、カカシの酷使された腰を撫でながら尋ねる。与えられる快感の強さはカカシの方が深いものだろうが、イルカはカカシに抱かれることに慣れた身だ。拙い技巧の自分に抱かれたカカシの方が、身体への負担は大きいだろう。――その後の動きの方が明らかに長かったし激しかったような気がするが。
「ん~、腰撫でてくれて気持ちいいしこんなに気遣ってくれるなんて、イルカ先生だめだよ俺以外にそんなことしちゃ」
「……いや意味がわからん」
「だってモテるじゃない。だめだめ俺以外にモテないでよ」
「今から別れるのに!?」
 一生俺に独り身でいろってんですか、と眼をかっぴらいて言えば、カカシは笑顔で頷いたうえ、首を横に振った。いやどっちだよ。
「まぁそういうことなんだけど、独り身は寂しいから俺の傍に居て」
 俺も寂しいし、と宣うひとがだんだん宇宙人じゃないかという気分になってきた。なんというか、話が通じているようで通じていない気がする。
「先生のセックス、やさしくて好きだよ」
 嫌じゃないならこれからは俺のことも抱いてね、とにこにこ告げてくるので、飛び出したんじゃないかってくらい眼が開いて丸くなった。眼球が痛い。端からばりばり剥がれてくるような気がする。
「えっ、いやだから別れ…?? 別れ…ましたよね??」
「セフレはね」
 そこで、がつん、と頭を殴られたような衝撃を受けた。
 セフレとは、別れた。決別した。つまりそれは。
「……俺を離す気は、ないということですか?」
「そりゃそうでしょ。どのツラ下げてあんなことの後にセフレになってって頼んだと思ってるの」
 そう言われて、すとんと胸にあったものが腑に落ちる。なぜわざわざ自分に声を掛けたのだろうと思って、でも尋ねるなんてしなかった。これならばしておけばよかったのではなかっただろうか。
「だいたいね、俺の処女を奪っておいてただで済むと思ったの?」
「……それをあなたが言いますか……ああ、いや……そうですね」
 あなただから。だからこそ、それを言えたのか。
「お互い様でしたか……あっ」
「なぁに?」
「さては……謀りましたね!?」
「ははっ、どうだろうね?」
 いや絶対にそうだろう。だって今までに見た事がないくらい、心の底から楽しそうに笑っているじゃないか。
「ん? あれ、ちょっと待って下さい……カカシさん、初めてだったんですか!?」
 あんなに指を呑まされるのも、悦所へ誘い込むのもうまかったのに信じられない、と顔に出まくっているのが自分でわかる。カカシはついに吹き出して腹を抱えるほど笑いだした。
「くっ、ははっ…、見事に騙されてくれたねぇ……そ、初めてだったよ。抱かれるのも、抱くのもね」
「はぁっ!?」
 寝耳に水とはこのことだ。まさか抱いたのも初めて、ということは……過日の、あの任務地でのものが、初めて。それはイルカも同じことで。
 イルカが吃驚にぽかんとしている間、カカシは暗部に配属される前に色の訓練もしたのだが、結局そっちより戦闘の方が圧倒的に役に立つと判断されて今まで使い道がなかった、けれど真面目に訓練しておいてよかったと上機嫌に話していた。
「……カカシさん、乙女なんですねぇ」
「ふ、そうなの」
 奪うのも奪われるのも、その相手は唯一人にするだなんて。
「めちゃくちゃ熱烈な告白じゃないですか」
「そうー。だから、たった今から俺たちはセフレじゃなくて恋人ですー」
 よろしくね、と茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばしてくるひとは、珍しく左目を開けていた。いや左目を開けていないとウインクしたことにならないのだろうが、常に起動状態の眼は瞼を上げればチャクラを消費し始めると言っていたのに、何をしているのだこのひとは。
「ちょっ…! 目、閉じて……うわっ」
「なぁに、キスでもしてくれんの?」
「ぬおおおおまたたばかったなぁああああっ」
「はははっ!」
 慌ててカカシの眼を閉じさせようとした自分は、まさしく飛んで火にいる夏の虫だったのだろう。近付いたところを羽交い絞めにされて一緒に布団へ転がった。
 まぁ楽しそうに笑ってくれているから、別にいいのだけれど。
「はぁ……恋人って、何すればいいんでしょう?」
 されるがままになっていると、カカシはイルカを腕の中でくるくる回しながらあちこちにキスしてくる。すごく、とても、喜んでくれているみたいなので、本当にいいのだけれど。そろそろ目が回りそうだ。
「んー、そうね。まずはセックス以外のこと、一緒にしない?」
 やっと止めてくれたカカシはふっとやさしい笑みを乗せて、回されたせいで髪が乱れに乱れすぽんと丸見えになったおでこに、むっちゅー、と可愛らしいキスをしてきた。
「それは……楽しそうですね」
「でしょ」
 お互いの気持ちいいこと以外に知って、知られていくというのは、こうも嬉しく期待を持つものなのだと……『恋人』という言葉をわざわ認めさせるだけで感じられるようにカカシがしてくれたのだと、イルカは恋人から初めてもらったものを噛み締めて、まずはただ抱きしめるだけの幸せを味わうことにした。カカシもきっと、同じように感じてくれるだろう。
  • やづみ
エロい…と思いながら読んでたらかわいかった!!!
同軸リバかつ同セックスリバという個人的に最も難易度の高そうだと思っていたプレイをあさっさり書かれるの、さすがです。
  • レピドプテラ
ご投稿ありがとうございます!
はぁ、良かったです……。エッチだし可愛いし、ハッピーエンド。お互い初めてって、やだもう、すきです。ありがとうございました!
×
Sponsored link


This advertisement is displayed when there is no update for a certain period of time.
It will return to non-display when content update is done.
Also, it will always be hidden when becoming a premium user.